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30min×5


NHK教育



NHK人間講座
「豊かさ」はどこへ行くのか 〜日本経済の100年を考える〜

堺屋太一 (作家・経済評論家)



(1) 近代日本のDNA 〜黒船から産業革命へ

日本の近代はどんな遺伝子、DNAを持って生まれたのか。
「安定」を第一とした江戸時代の末にやってきた黒船のメッセージは、自由主義、市場経済だった。
維新の志士達は、「国を富ませて軍備を強くするためにはまず、近代産業だ」と考えた。
そして明治になり、岩倉具視を代表とする使節団は、官僚が最良の仕組みを選び国民を指導していくドイツの官僚啓蒙主義を手本にした。
また、殖産興業を進める上で明治官僚が選んだのは徹底した外国の模倣。
例えば1872年にできた富岡模範製糸工場はフランスの模倣だった。
そして日清戦争に勝利して日本は維新後30年で近代化の入り口に立った。
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(2) 20世紀前半の苦悶 〜模倣の限界から官僚統制へ〜

欧米に遅れること100年、20世紀初頭ようやく産業革命を達成した日本だが、
その後は驚くべき短期間で近代工業社会を打ち立てる事に成功した。
資本も労働力も十分でなかった日本は何故工業化できたのか?堺屋太一さんはここに並はずれた国家官僚の指導力を見る。
例えばそれ迄、住宅で言えば東京の「江戸間」、関西の「京間」のように地方ごとにバラつきのあった規格を、
官僚たちは議会の反対を抑えてメートル法で全国統一、これによって工業製品の全国市場統一・規格大量生産が可能になった。
画一的教育システムや東京一極集中構造など、近代工業社会の条件が「官」によって整備されていった20世紀前半の歩みを辿る。


(3) 「戦後」とは何か 〜新しい正義と55年体制〜

敗戦によって日本社会に<効率・安全・平等>と言う3つの新しい正義が誕生した。
強大な軍事力を持つ国家に国民が忠義を尽くすと言う戦前の価値観は完全に否定され、
日本は平和で豊かな近代社会を目ざすことになった。
しかしその一方で敗戦による絶対的な物資不足からの回復という大義名分のもとに、厳格な統制経済は戦後も引き続いて行われ、
また教育に於いても「通学区域」に代表される画一的な仕組みに改革の手が及ぶ事はなかった。
いわゆる戦後改革によって民主主義は芽生えたが明治以来の<官僚主導・規格大量生産>と言う日本の根幹は揺るがなかったのである。


(4) 邁進する日本経済 〜長い高度成長の時代〜

日本経済は50年代の10年間、毎年10%の経済成長をし、60年代の10年間にも10%強の成長が続いた。
理由は、第二次大戦後に世界的に経済が成長した事、技術の進歩、経済政策の進歩。
無理な引き締め政策で通貨の発行量を減らして大恐慌を起こした教訓から、不況を防止する政策としてGATT・IMF体制が作られた。
また第二次大戦後は中東で大油田が発見され石油の価格が下がり、日本のように資源を輸入しなければならない国には
非常に有利な状況ができていた。また、テレビ・冷蔵庫・洗濯機という「三種の神器」など、
新しい需要が生まれた事も経済成長につながった。


(5) 最適工業社会の達成 〜ジャパン・アズ・ナンバーワン〜

1970年に開かれた万博はカジュアルウェアやファーストフード等、規格大量生産による使い捨て文明を定着させるきっかけとなった。
70年代は石油ショックと円高の時代だったがそれをも乗り越えた日本経済の強さの秘密は何だったのか。
第一は、官僚主導・業界協調体制。例えば通産省は製造業と流通業の立場に立つなど官庁が業界主流と協力しながら
業界に強い指導力を発揮した事。第二に、日本式経営。終身雇用などの慣行が従業員の忠誠心を強めた上、
先行投資型の財務体質が作られた事。第三は、企業系列によって金融を安定させた事。
80年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれるようになり、こうした日本式経営が日本経済の強さを支えているといわれた。


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近代的な「豊かさ」はどのようにしてつくられ、移り変わっていくのか?
完璧な工業社会を築いた日本経済の100年を検証し、長期停滞・低迷の真っただ中にある
現在の問題点と真の「豊かさ」をつくる新たな展望を示す。


堺屋 太一

1935年 大阪生まれ。東京大学経済学部卒業後、通産省(現経済産業省)に入る。
通産省時代に日本万国博覧会の企画、開催に携わる。その後、沖縄海洋博やサンシャイン計画の推進をする。
1978年通産省を退官し、執筆、講演活動に入り、著述のみならず、テレビ、講演と幅広い活動を続ける。
1998年7月より2000年12月まで小渕内閣、森内閣において経済企画庁長官を務める。
その後、小泉内閣では内閣特別顧問を務める。

主な著書に『油断!』『団塊の世代』『巨いなる企て』『峠の群像』『知価革命』
『日本とは何か』『組織の盛衰』『秀吉』など多数。近著に『時代が変わった』がある。

(text from NHK site)

2002-04-01・08・15・22・29


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