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30min×4


NHK教育



NHK人間講座
「豊かさ」はどこへ行くのか 〜日本経済の100年を考える〜

堺屋太一 (作家・経済評論家)


(6) 文明の転換点 〜日本と世界のすれ違い

日本は明治以来、規格大量生産に象徴される近代工業社会を必死に追求し、80年代にその「優等生」となった。
しかし正にその時、日本の志向する社会と人類の文明の方向との間に差が生じた。
第一の理由は「コンピュータ制御」の進歩。同じベルトラインで多種類の物も簡単に作れるようになり規格大量生産の効果が下落した。
第二に、アメリカから資金が投資されアジア諸国が急速に工業化した事も日本の規格大量生産の優位性を低めた。
第三に、需要のソフト化。大きさとか数量ではなく、他人と違った物や自分の好みの物を求める欲求が強まり、
情報やブランドの価値が高まった事。こうして人類の文明が知恵の値打ちを評価する社会に向かったのに、
日本はずっと同じ物財増大の方向を追求し続けた事が、90年以降日本経済の苦境をもたらした。


(7) 失われた10年 〜「バブル」とは何だったのか

金余りのため土地と株が値上がりしたのが80年代のバブル現象。
政府が土地購入に対する融資を引き締め、地価が下がり91年にバブルは崩壊した。
バブルの罪は、銀行が不良債権を抱えこんだ事、過剰な施設が作られた事、日本全体をコスト高の社会にした事。
それに対しバブル対策は後手に回った。阪神大震災が起きた95年には、混乱を避ける為、
大規模な不良債権処理をせず住専だけを処理した。96年、一時的に景気が上昇したので政府は公共事業費を引き締めた為、
不況になり大手金融機関が倒産した。一方、98年に発足した小渕内閣は債務超過の銀行の淘汰など大胆な対策をとった。
中小企業の倒産防止政策などの緊急経済対策が打ち切られたことによる、
弱い企業が崩れる「二番底」現象が予想以上に激しいのが今の状況だ。


(8) 日本経済の「今」を考える

2001年の経済成長率は2.3%のマイナス、失業率は5.6%と90年の2倍以上。
バブル崩壊以降、不況対策の為の支出が急増する一方、税収が伸び悩み、財政赤字が急増、2001年の国債発行額は35兆円。
国債残高が増えると、世の中の資金が国債発行に吸い取られて他の分野に回らなくなる「クロージング・アウト」が起き、
財政硬直化を招く。貯蓄が多くて投資が減り、売れ残りが溜まり企業は赤字になり残業手当てやボーナスを減らすので所得が減る。
ここで人々が倹約に努めて消費を減らすとまた貯蓄が余りさらに所得が減る。
これが繰り返されるデフル・スパイラルに今、日本は陥っている。企業の経営悪化、失業者の増加、所得の減少、
構造改革が困難になる、社会不安の増大等の問題が起きている。
財政を縮小しようとするとますますデフレ・スパイラルになるという矛盾にぶつかっている。


(9) 今、日本は何をすべきか

日本の衰退は経済に限らない。例えば、犯罪認知件数はこの10年で67%も増えた。
教育面では、学級崩壊や学力の低下が問題となっている。インターネットなど情報通信における立ち遅れも目立つ。
これらの根底には経済の需要不足がある。その理由は、高齢者が貯蓄に走っている事や、
知恵の値打ちで勝負する新規企業が少ない事などだ。
知恵の値打ちの社会を作るには、
第1に政府の経済や社会への関わりを減らす事。
第2にハイリスク・ハイリターンな金融を広める事。
第3に情報技術(IT)の普及。
第4に土地と都市の考え方を変え住宅も文化施設も混合した街づくりをする事。
第5に画一的な文化を個性を重んじる文化に変える事。
官僚文化からの脱却が全てだ。


2002-05-06・13・20・27

(text from NHK site)


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