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30min×4


NHK教育



NHK人間講座
「イスラーム世界を読む」

小杉 泰 (京都大学大学院教授)

(1) 拡大するイスラーム世界

イスラーム世界の拡大はとどまる事を知らず、今後20年ほどで、人数の上では世界最大の宗教になるとも予測される。
開祖ムハンマドの死後、イスラームはアラビア半島から東西に向けて広がった。世界史でいう「大征服」の時代だ。
その後長らく栄華を過ごしたイスラームだが、18世紀から20世紀半ばまでは分割と植民地化の時代だった。
西洋列強に対する中で、イスラームの教えを現代に実現しようという「イスラーム復興」の動きが出てきた。
西洋の支配や優位をはねのけ独立を回復、自立した国を復興し、新しい解釈でイスラームを再生し、
かつての文明的な黄金時代を回復しようと今、時代は動いている。


(2) ムハンマドと聖典クルアーン

ムスリムたちが「ムハンマド様がこうおっしゃった」と言う時、昨日まで生きていた人物の言葉を今日聞いたかのように話す。
ムハンマドはムスリムにとって具体的な規範なのだ。そして、聖典クルアーンをこの世にもたらしたことが
ムハンマドの奇跡だと言われる。イスラームの信仰を一言で要約すると、クルアーンを神の言葉と思う事に尽きる。
小杉さんは「イスラームとは世界を認識する技術体系、社会を運営する一種のテクノロジーだ」と考える。
例えば、貧者を救済するためにザカート(喜捨)を支払う事が信徒の義務として定められている等、
単なる「祈り」以上に実践的な方法論がイスラームにはある。


(3) 信仰儀礼と共同体ウンマ

クルアーン(コーラン)は,イスラームに従いムハンマドに従う者達は「一つの共同体」を形成しているのだ、
という――「これは汝らのウンマ(共同体)、単一のウンマである」。
ムスリムが実践しなければならない義務行為に「五行」がある。
「信仰告白」−−−−−−−− アッラーのほかに神なしと宣言する事。
「礼拝」−−−−−−−−−− 日に五回行う。
「喜捨」−−−−−−−−−− 貧しい同胞のために財産の中から喜捨(ザカート)をする。
「ラマダーン月の断食」−−−−日の出から日没まで一切の飲食を絶つ。
「巡礼」−−−−−−−−−− 一生に一度はマッカ(メッカ)への巡礼をする。
これら五行全ての底に信徒は一つのウンマだという意識がある。


(4) 黄金時代のイスラーム文明

9世紀以降の黄金時代のイスラーム文明は西欧に大きな影響を与えた。
砂糖とコーヒーのような現代の我々に身近な物がイスラーム起源だ。
科学や文化ではまず、1,2,3といった「アラビア数字」を使って代数学が発達した。
天文学も発達し、多くの観測所が設けられ、天体観測儀(アストロラープ)も作られた。
またアラビア語起源の用語も多い。化学はイスラーム圏で大きく発展した為、その用語も沢山西欧に入っている。
アルコール(アル・クフール)、アルカリ(アル・カーリー)等。
また、病院も造られヨーロッパより早く伝染病の研究なども成される等、医学も進歩した。


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湾岸戦争、アフガン支援を経て急速に接近した日本とイスラーム世界。
彼らは何を目指し、何処へ向かおうとしているのか?
信仰・生活から政治・経済まで、幅広い視点でイスラーム世界の現在を眺め、未来を探る。

小杉 泰

1953年 北海道生まれ。1983年、エジプト国立アズハル大学イスラーム学部卒業。京都大学・法学博士。
国際大学中東研究所主任研究員、英国ケンブリッジ大学中東研究センター客員研究員、国際大学大学院国際関係学研究科教授を経て現職。
専攻はイスラーム学、中東地域研究、比較政治学、国際関係学。
『イスラームとは何か』(講談社現代新書)、『イスラームに何がおきているか』(編著/平凡社)、『イスラム潮流』(監修/NHK出版)、
『エジプト・文明への旅』(NHKブックス)、『現代中東とイスラーム政治』(昭和堂)、『イスラーム世界』(筑摩書房)など編著書多数。

(text from NHK site)


2002-04-02・09・16・23


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